産婦人科の進歩
次号掲載予定の最新論文
研究部会記録 <77巻4号 掲載予定>
高度肥満症例における腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術の症例提示と当科での工夫
著者・共著者: | 加嶋 洋子,小谷 泰史,大角 規子,東 美夕,瀬川 美雪,阿部 秋子,福田 奈穂,松村 謙臣 |
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所 属: | 近畿大学医学部産科婦人科学教室 |
受付日 2025/2/7
<概要なし>
症例報告 <77巻3号 掲載予定>
外陰癌に対する同時化学放射線療法後に発生した未分化多形肉腫の1症例
著者・共著者: | 中村 真季子,横江 巧也,北 正人,岡田 英孝 |
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所 属: | 関西医科大学医学部 産科学・婦人科学講座 |
受付日 2024/9/5
外陰癌は,全女性器生殖器癌の約3―5%の比較的まれな悪性腫瘍である.放射線治療が有効であ る一方で,放射線治療に伴って二次的に外陰肉腫を発生した症例がまれながら報告されている.今回, 外陰部扁平上皮癌に対し同時化学放射線療法(CCRT)を行い,完全奏効の治療効果を得られたが, その6年後に未分化多形肉腫(undifferentiatedpleomorphicsarcoma;UPS)としての二次性発がん をきたしたまれな症例を報告する.症例は69歳の女性で左外陰部の疼痛を主訴に当科を受診した.外 陰cT2N1M0 FIGO ステージⅢA期と診断し,CCRTを実施し,治療効果は完全奏効であった.6年 後に左外陰部に再発を疑う2cm大の腫瘤を認めた.外陰癌の照射野内再発の術前診断で,約1cmの切 除マージンで腫瘍を切除した.病理組織学所見は,hematoxylin-eosin(HE)染色で多形性を有する 短紡錘形細胞のびまん性増殖を認め,免疫染色ではCD68陽性,CD163陽性,ki―67陰性,p53null patternであった.本症例は非上皮性の悪性腫瘍であり,特異的な分化傾向を示さないことから,最終 的にUPSと診断された.病理学的切除断端陰性であり,補助化学療法・放射線療法は行わず,術後1年 間再発なく経過している.〔産婦の進歩77(3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:多形肉腫,放射性二次発がん,根治的外科的切除,外陰癌
症例報告 <77巻3号 掲載予定>
卵巣明細胞癌術後11年でホルモン補充療法中に発症した腟類内膜癌の1例
著者・共著者: | 栗本 咲耶,久松 洋司,北 正人,横江 巧也,村田 紘未,橋本 佳子,溝上 友美,岡田 英孝 |
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所 属: | 関西医科大学医学部 産科学・婦人科学講座 |
受付日 2024/9/24
子宮内膜症を発生母地とした悪性腫瘍は子宮内膜症関連癌と呼ばれるが,異時性・異所性に組織型の異なる癌が発生した報告は少ない.また,腟断端の腫瘍は摘出に難渋することもある.症例は当院初診時40歳,2妊2産.30歳で卵巣子宮内膜症に対して腹腔鏡下両側卵巣嚢胞摘出術の既往があった.右卵巣明細胞癌ⅡA期に対して腹式単純子宮全摘術・両側付属器切除術・大網部分切除術・骨盤リンパ節郭清術を行った後,パクリタキセル・カルボプラチン療法を6回行い,その後再発なく経過した.卵巣欠落症状に対し術後1年から10年間エストロゲン補充療法を行った.術後11年目に腟断端に2.5 cmの腫瘍を認め,MRI検査とPET―CT検査で同部に限局した腫瘍と診断し,腟内視鏡・腹腔鏡同時併用手術で周辺臓器の損傷を避けつつ腫瘍を完全摘出した.病理組織検査で近傍に子宮内膜症を伴う腟類内膜癌と診断し,組織型の異なる子宮内膜症関連癌が異所性に後発したと推測された.術後追加治療なく2年再発なく経過している.子宮内膜症関連癌治療後のホルモン補充療法は症例に応じて薬剤を選択する必要があり,エストロゲン単独だけでなくエストロゲン・プロゲステロンの併用療法も検討する必要がある.〔産婦の進歩77(3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:子宮内膜症関連癌,腟癌,腟内視鏡手術,腹腔鏡手術,エストロゲン補充療法
症例報告 <77巻3号 掲載予定>
右卵巣単房性囊胞の経過観察中に発見された低異型度虫垂粘液性腫瘍の1例
著者・共著者: | 西川 桃子,村田 紘未,横江 巧也,久松 洋司,橋本 佳子,吉村 智雄,北 正人,岡田 英孝 |
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所 属: | 関西医科大学医学部 産科学・婦人科学講座 |
受付日 2024/9/26
低異型度虫垂粘液性腫瘍(low-grade appendiceal mucinous neoplasm;LAMN)はまれな疾患 で性成熟期女性における報告は少ない.今回右卵巣単房性囊胞の経過観察中に発見された,LAMNに よる腹膜偽粘液腫の1例を経験した.患者は35歳,0妊.婦人科外来を受診し経腟超音波検査で右卵巣 単房性囊胞を指摘され,骨盤単純MRIで漿液性囊胞腺腫または黄体囊胞の破裂と画像診断された後に 経過観察された.1年後にCEA28.4U/mLと高値を示し,MRIならびに造影CT画像で右卵巣囊腫の壁 の石灰化と右卵巣が腸管に連続している所見から,虫垂由来の腫瘍の可能性も考え腹腔鏡手術を行っ た.術中所見では,ゼラチン様腹水あり,右卵巣囊胞は腫大した虫垂と連続しており,右付属器摘出, 虫垂切除術,大網部分切除術を行った.病理組織所見からLAMN,pT4NXM1aの腹膜偽粘液腫と診断 し,術後に専門施設にて腹腔内化学療法を行い,2年間再発なく経過している.LAMNは経腟超音波 検査で検出される可能性のある腫瘍であり,産婦人科医は注意深く超音波検査行い,診断の向上およ び治療につなげる必要がある.〔産婦の進歩77(3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:低異型度虫垂粘液性腫瘍,卵巣偽粘液腫
原 著 <77巻3号 掲載予定>
30歳以上の初産婦における,年齢と緊急帝王切開術のリスクの関連性の検討
著者・共著者: | 田中 惇也,磯野 渉,福田 大晃,南野 有紗,新垣 亮輔,林 子耕 |
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所 属: | 紀南病院産婦人科 |
受付日 2024/6/27
【目的】近年不妊治療の普及などで,合併症リスクなどが増加するとされる高齢初産婦の割合は 増加している.そこで,和歌山県南部の周産期センターである当院においても,初産婦の年齢と緊急 帝王切開術症例との関連性を解析して,限られた医療資源の有効活用に役立つ情報を獲得することを 目指した.【方法】2017年4月から2024年3月に分娩した30歳以上の初産婦675例に関して,年齢,入院 時のビショップスコア,妊娠週数,児体重,身長,BMI,入院目的をカルテから抽出した.初めに年 齢に関して2歳ごとに7群に分け,それぞれ緊急帝王切開術の割合を計算した.次に年齢で6つの境界を 設定し,緊急帝王切開術症例数のオッズ比を算出した.最後に,40歳を基準にして全675例を2群に分 割して,他の因子を比較した.【結果】年齢で分割した7群の中で,40―41歳,42歳以上の2群で,緊急 帝王切開術の割合が40%程度と高値となった.また,40歳で区分した際に緊急帝王切開術のオッズ比 が3.4と最大であった.更に,40歳以上50例と39歳以下625例の2群で年齢以外の因子を比較した際に有 意差が検出される項目はなかった.【結論】今後合併症などの因子も検討して研究を進める必要はある が,初産婦の年齢を40歳で区切ると緊急帝王切開術の可能性が高い群を抽出できた.〔産婦の進歩77 (3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:高齢初産婦,年齢,40歳,緊急帝王切開術,後方視的研究
研究部会記録 <77巻4号 掲載予定>
当科における子宮体癌再発低リスク群と術前診断した症例の鏡視下手術方針
著者・共著者: | 田中 佑治,天野 創,高橋 顕雅,出口 真理, 山中 弘之,米岡 完,信田 侑里,中村 暁子, 小川 智恵美,辻 俊一郎,村上 節 |
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所 属: | 滋賀医科大学 産科学婦人科学講座 |
受付日 2025/1/7
<概要なし>
キーワード:子宮体癌,センチネルリンパ節生検,骨盤リンパ節郭清,リンパ節転移,鏡視下手術
症例報告 <77巻3号 掲載予定>
後腹膜腔を占拠した巨大囊胞性子宮平滑筋腫の1例
著者・共著者: | 馬場 航平,安堂 有希子,梅宮 槙樹,増田 望穂, 池田 真規子,佐藤 浩,田口 奈緒,角井 和代 |
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所 属: | 兵庫県立尼崎総合医療センター 産婦人科 |
受付日 2024/5/9
症例は48歳,0妊0産.呼吸苦と腹部膨満を主訴に当院救急搬送となった.胸腹部単純CT検査にて,44cm大の骨盤内を占拠する巨大な囊胞性腫瘤を認め,卵巣腫瘍疑いとして当科入院管理とした.骨盤部単純MRI検査では,内部に一部充実部分を認める囊胞性病変であったが,明らかな拡散制限は伴わなかった.血中酸素飽和度の低下を認めており,手術の方針としたが,心エコーと下肢静脈エコーから肺塞栓症を疑い,未分画ヘパリンによる抗凝固療法後にIVCフィルター留置のうえで手術の方針とした.腫瘍完全切除は困難と判断し,腫瘍減量目的として,腫瘍部分切除術と左付属器摘出術を実施した.摘出標本は,充実部と囊胞部をもつ腫瘤で,病理組織学的検査から良性平滑筋腫の診断となった.術後は,残存囊胞性病変は縮小傾向で経過良好である.骨盤腔の巨大占拠性病変は発生部位や質的診断に難渋することが多く,術前評価が困難となることが予想される.今回,子宮体下部から発生し,後腹膜腔に進展した巨大囊胞性平滑筋腫の1例を経験し,診断・治療・周術期管理に難渋したので報告する.〔産婦の進歩77(3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:子宮平滑筋腫,巨大囊胞性腫瘤,深部静脈血栓症
症例報告 <77巻3号 掲載予定>
前置癒着胎盤が疑われた妊娠中期子宮内胎児死亡症例に予防的子宮動脈塞栓術を施行した1例
著者・共著者: | 中林 桃子,佐藤 浩,山岡 侑介,高石 侑,増田 望穂,安堂 有希子,田口 奈緒,角井 和代 |
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所 属: | 兵庫県立尼崎総合医療センター 産婦人科 |
受付日 2024/9/20
帝王切開創部にかかる前置胎盤症例は周産期リスクが高いが,妊娠12週以降に子宮内胎児死亡(以下IUFD)となった場合の管理方法は定まっていない.今回われわれは,妊娠中期に前回切開創に胎盤付着があり,前置癒着胎盤が疑われるIUFDの1例を経験したので報告する.症例は36歳2妊1産(前回は骨盤位のため帝王切開).妊娠16週での胎児発育不全精査の紹介時にIUFDを確認した.胎盤は前壁付着で下縁が内子宮口に接しており,前回帝王切開創と思われる部分では血流が豊富で癒着胎盤が疑われた.まずは待機的療法の方針とし,2カ月後には内子宮口付近の胎盤は自然退縮し剥離していたが,癒着が疑われる部位は豊富な血流を維持していた.待機中フィブリノーゲンが緩徐に低下してきたため子宮動脈塞栓術(以下UAE)を先行し娩出の方針とした.IUFD確認68日後にUAEを行い,頚管拡張,ゲメプロスト腟錠を使用し,児とともに胎盤もスムーズに娩出された.出血は羊水込みで10 gであり子宮内に明らかな遺残も認めず経過良好であった.前置胎盤疑う症例での中期流産処置でUAEは必須ではないが,出血リスクが高い場合には考慮しても良いと思われる.〔産婦の進歩77(3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:子宮内胎児死亡,前置胎盤,癒着胎盤,既往帝王切開後妊娠,子宮動脈塞栓術
症例報告 <77巻3号 掲載予定>
常位癒着胎盤のため子宮摘出を要したホルモン補充周期による凍結融解胚移植妊娠の3例
著者・共著者: | 前田 美亜,今福 仁美,栖田 園子,施 裕徳 ,出口 雅士,谷村 憲司,寺井 義人 |
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所 属: | 神戸大学大学院 医学研究科 産科婦人科学分野 |
受付日 2024/4/17
癒着胎盤は産科危機的出血を引き起こし,妊産婦死亡の原因となり得る.癒着胎盤のリスク因子として帝王切開術や子宮動脈塞栓術(UAE)の既往などがあるが,生殖補助医療(ART)も癒着胎盤のリスク因子の1つである.近年では,凍結融解胚移植の中でもとくに自然周期に比してホルモン補充周期で癒着胎盤の発症率が高いことが報告されている.今回,常位癒着胎盤のために子宮摘出を要した症例で,癒着胎盤のリスク因子がホルモン補充周期による凍結融解胚移植のみであった3例を経験したので報告する.3例はいずれもホルモン補充周期の凍結融解胚移植で妊娠成立した.症例1は45歳2妊1産.妊娠41週に経腟分娩後,胎盤が娩出されず,自然剥離を待つも大量出血し,出血性ショックのため子宮摘出を施行した.症例2は35歳2妊1産.妊娠37週に経腟分娩後,胎盤が娩出されず出血多量であり当院に搬送された.当院に到着時も胎盤剥離徴候を認めず,癒着胎盤が疑われた.UAEを行うも止血不能で子宮摘出を施行した.症例3は35歳1妊0産.妊娠39週に経腟分娩後,胎盤が娩出されず出血性ショックのため当院に搬送された.UAEで止血を得たが,産後3日目に施行したMRI検査で癒着胎盤が疑われた.retained products of conceptionのリスク等について説明したところ,子宮摘出を希望したため産後5日目に施術した.病理組織診断は全例,placenta accretaであった.ホルモン補充周期によるART妊娠は癒着胎盤のリスク因子であることを認識し,癒着胎盤を念頭に置いた周産期管理が必要である.〔産婦の進歩77(3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:癒着胎盤,子宮摘出術,ホルモン補充周期,凍結融解胚移植,生殖補助医療
症例報告 <77巻3号 掲載予定>
妊娠中に気胸を伴ったリンパ脈管筋腫症の1例
著者・共著者: | 齊藤 駿介,永昜 洋子,松本 知子,直聖 一郎,井淵 誠吾,石川 渚,藤田 太輔,大道 正英 |
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所 属: | 大阪医科薬科大学 産婦人科学教室 |
受付日 2024/9/10
リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis;LAM)は1―2.6/100万出生と非常にまれであり,生殖可能年齢の女性に多く見られる疾患である.疾患の増悪には,エストロゲンが関与するといわれており,妊娠中は病態を増悪させる可能性が高くなる.今回,われわれは繰り返す気胸を呈したLAMの1例を経験したので報告する.患者は2妊,1産.既往歴として24歳より再発性気胸を認め,右気胸,左気胸ともに複数回の手術歴があった.32歳でLAMと診断された.以後,1回目妊娠は問題なく経腟分娩となった.今回,自然妊娠で妊娠成立し,妊娠34週で気胸を発症した.発症直後は酸素療法による保存的治療であったが,気胸が悪化したため胸腔ドレーンを挿入した.妊娠35週5日,胸腔ドレーン挿入後も両側気胸が悪化したため緊急帝王切開を施行した.術後の管理としては,抗凝固療法を施行し,厳重に経過観察したが,気胸の増悪を認め胸膜癒着術を両側に施行した.以後,胸腔ドレーン抜去を行い帝王切開後13日目に退院となった.LAM患者における妊娠中の気胸は帝王切開率の上昇と関連しており,個別の管理が必要である.妊娠中の気胸の管理には,継続的なモニタリングと適時の介入が重要であり,また,将来的な気胸のリスクに関するプレコンセプションケアが必要である.〔産婦の進歩76(3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:リンパ管筋腫症, 気胸, 妊娠, 母体合併症, エストロゲン
症例報告 <77巻3号 掲載予定>
切除不能な子宮体部原発大細胞型神経内分泌癌に対して,レジメンの化学療法を実施した1例
著者・共著者: | 花澤 綾香,田中 稔恵,中尾 恵津子,繁田 直哉,清原 裕美子,原 知史,井上 貴史,筒井 建紀 |
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所 属: | 地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院 産婦人科 |
受付日 2024/11/26
神経内分泌癌は非常に悪性度が高い腫瘍である.治療は確立されていないが,小細胞肺癌に準じて化学療法を行うことが多い.今回,切除不能な子宮体部原発大細胞型神経内分泌癌に対して,3レジメンの化学療法を行った1例を報告する.症例は34歳女性,未妊.子宮体部原発大細胞型神経内分泌癌のⅣB期に対し,小細胞肺癌に準じPE療法(Cisplatin,Etoposide)を4コース施行した.一時,部分奏功を得たが,その後,腫瘍増大を認めた.続いて切除不能な子宮体癌の適応でLenvatinib+Pembrolizumab併用療法を4コース施行したが,腫瘍増大を認めた.MSI検査は陰性であった.続いて,小細胞肺癌に準じ,Amrubicin単独療法を2コース行ったが,病勢進行に伴う全身状態の悪化を認め,治療終了とした.画像評価ではPDであったが,腫瘍マーカーは一部低下を認めた.初診より約9カ月後に自宅で永眠となった.経過を通じ,小細胞肺癌に準じたレジメンにおいて奏効が得られた.原発部位ではなく,組織学的特徴に応じた化学療法を行うことが有効な治療につながる可能性がある.〔産婦の進歩77(3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:large cell neuroendocrine carcinoma(LCNEC), neuroendocrine carcinoma(NEC), endometrialcancer
症例報告 <77巻3号 掲載予定>
一児食道閉鎖のため羊水過少を呈しなかった双胎間輸血症候群の1例
著者・共著者: | 塩見 まちこ¹,²),永昜 洋子²),直聖 一郎²),松本 知子²),吉田 篤史²),石川 渚²),藤田 太輔²),大道 正英²) |
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所 属: | 1)大阪府吹田済生会病院 産婦人科 |
受付日 2024/12/2
双胎間輸血症候群(TTTS)は一絨毛膜二羊膜双胎(MD twin)の約10%に合併し,無治療では80%が子宮内胎児死亡に至ることより早期診断が求められる.今回,一児食道閉鎖のためTTTSの診断に苦慮したMD twinの1例を経験したので報告する.症例:25歳,1妊0産,自然妊娠成立し,妊娠9週1日にMD twinの診断で当院に紹介となった.妊娠16週1日,供血児の推定体重-1.8 SD,最大羊水深度(以下MVP)3.8 cm,受血児の推定体重0.0 SD,MVP 3.9 cmとSelective FGRを認めていた.妊娠29週3日,受血児0.5 SD,MVP 9.3 cm,供血児-1.7 SD,MVP 6.3 cmであり一児羊水過多,Selective FGRのため入院とした.妊娠32週1日,供血児-2.0 SD,MVP 4.7 cm,受血児0.6 SD,MVP 11.1 cmであったが,TTTSの診断はつかなかった.妊娠32週2日の75 g OGTT検査は陰性であった.妊娠34週3日,供血児のSelective FGR(-2.0SD),受血児の心拡大(CTAR 48%)および心機能低下を認めたため,妊娠34週4日に緊急帝王切開を施行した.供血児は1,642 g,受血児は2,340 gで出生となった.出生後,供血児は食道閉鎖および鎖肛と診断され転院となり,日齢1で食道閉鎖根治術および人工肛門増設術を行い,経過良好である.考察:今回,一児食道閉鎖のため羊水過少を呈しなかったTTTSの1例を経験した.供血児における食道閉鎖は,典型的な羊水過少症の症状をみせずTTTSの診断が困難となる可能性がある.MD twinでは,羊水量や胎児発育のみならず,先天構造異常や心機能等に注意した包括的な出生前評価が重要であると考えられた.〔産婦の進歩77(3),2025(令和7年8月)〕
キーワード:一絨毛膜二羊膜双胎,双胎間輸血症候群,食道閉鎖,羊水過多
症例報告 <77巻1号 掲載予定>
非認証施設のNIPTを契機に診断した 正常バリアントである8p23.2重複の1例
著者・共著者: | 和田 悠1),藤田 太輔1,2),森田 瑠香2),永昜 洋子1), 大道 正英1),山田 崇弘2,4),霜川 修3),夫 律子3) |
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所 属: | 1)大阪医科薬科大学 産婦人科学教室 2)大阪医科薬科大学病院 遺伝カウンセリング室 3)リッツメディカル株式会社 クリニカルラボラトリー 4)北海道大学病院 臨床遺伝子診療部 |
受付日 2024/9/4
非侵襲性出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal testing; NIPT)は,胎児の染色体異常を検出する非確定的検査である.本邦におけるNIPTの非認証施設では,3つの染色体トリソミー(21,18,13番)以外の全染色体の異数性や微小欠失・重複等についても検査を行っている.また,非認証施設は検査前後の遺伝カウンセリングやフォロー体制の不備など,さまざまな問題が指摘されている.今回非認証施設のNIPTで8番染色体の部分重複の疑いとされ,人工妊娠中絶目的で当院に紹介されてきた妊婦に染色体マイクロアレイ検査を行い,親由来の正常バリアントである8番染色体(8p23.2)部分重複と確定診断した1例を経験した.本症例は偶然にも人工妊娠中絶を回避できたが,非認証施設の不十分な情報提供が原因で,正常バリアント胎児の人工妊娠中絶が潜在的に行われている可能性がある.NIPTの受検を検討する妊婦に対しては,適切な遺伝カウンセリングとフォローアップが強く望まれる.〔産婦の進歩77(1):59―64,2025(令和7年2月)〕
キーワード:NIPT,遺伝カウンセリング,無認証施設,染色体マイクロアレイ検査,8p23.2重複
症例報告 <77巻1号 掲載予定>
高エストロゲン症状を呈した卵巣粘液性囊胞腺腫の1 例
著者・共著者: | 松原 侑子1),瀧口 義弘1),高木 力1),下向 麻由1),内田 学1),木野 茂生2),坂本 能基1) |
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所 属: | 1)医療法人同仁会 耳原総合病院 産婦人科 2)同・病理診断科 |
受付日 2024/7/11
症例は82歳,3妊2産.約1カ月前からの断続的な不正出血を主訴に近医を受診し,精査目的に当科紹介となった.経膣超音波検査で右卵巣に50 mm×18mmの多房性囊胞性病変を認めた.乳房の張りを自覚しており,MRI画像では52mm大の充実性腫瘍を認めた.エストラジオール(E2)を測定したところ39.6 pg/mLと年齢に比して高値を示した.顆粒膜細胞腫の疑いで,腹式子宮全摘出術および両側卵管卵巣摘出術を施行した.術後病理検査で右卵巣粘液性囊胞腺腫と診断された.術後2週間の採血で血中E2値が5 pg/mL未満と測定感度以下に低下したため,卵巣腫瘍による高エストロゲン血症であったと診断した.粘液性囊胞腺腫は表層上皮性・間質性腫瘍に分類される卵巣腫瘍であり,一般的にはステロイドホルモンを産生しない腫瘍とされているが,実際には非性索間質性腫瘍,とくに粘液性腫瘍がエストロゲン産生に関与しているとの報告がこれまでも複数ある.今回,粘液性囊胞腺腫による高エストロゲン血症の1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.〔産婦の進歩77(1),53-58,2025(令和7年2月)〕
キーワード:粘液性嚢胞腺腫,ホルモン産生腫瘍,閉経後,高エストロゲン血症
症例報告 <77巻1号 掲載予定>
重複腎盂尿管に対し蛍光尿管カテーテルを使用したロボット支援下子宮体癌手術の1例
著者・共著者: | 前田 万里紗,福田 真優,水田 結花,福井 希実,水野 友香子,山本 絢可,中川 江里子,岩見 州一郎 |
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所 属: | 大阪赤十字病院 産婦人科 |
受付日 2024/10/1
重複腎盂尿管は比較的まれであるが婦人科領域で遭遇しうる疾患である.今回蛍光尿管カテーテルを使用しロボット支援下手術を施行した重複腎盂尿管合併の子宮体癌症例を報告する.症例は54歳で術前に子宮体癌ⅠA期相当と診断した.MRIで右尿管瘤を認めたためMR urographyを施行し,両側重複腎盂尿管を認め骨盤内で同定できた尿管は左右ともに1本であった.膀胱鏡所見では尿管口は両側1つで,右尿管口は尿管瘤に開口しておりガイドワイヤー挿入は困難と判断し,左側に蛍光尿管カテーテルを留置しロボット支援下子宮悪性腫瘍手術を施行した.術中,先に視認した左尿管は発光せず,その背側に発光するもう1本の尿管を発見した.右側も水尿管に伴走する正常径の尿管を認めた.拡張した尿管が大きく蠕動するため手術操作に注意を要したが,尿管損傷することなく手術終了した.腎尿路奇形合併の婦人科疾患では術前に静脈性腎盂造影検査やCT urographyなどの尿路検査法も考慮されるが,正確な尿路解剖が把握できない場合があり,開腹よりも尿管損傷リスクが高いとされる鏡視下手術おいては術中常時に重複尿管の可能性について留意が必要と考えられた.〔産婦の進歩77(1):65―70,2025(令和7年2月)〕
キーワード:重複腎盂尿管,蛍光尿管カテーテル,尿管損傷予防
原 著 <77巻1号 掲載予定>
中隔子宮を有する不妊・不育症に対する子宮鏡下子宮中隔切除術の有効性に関する検討
著者・共著者: | 中村真由美,林 正美,石川 渚,森田 奈津子, 丸岡 寛,劉 昌恵,猪木 千春,大道 正英 |
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所 属: | 大阪医科薬科大学産婦人科学教室 |
受付日 2024/8/30
【目的】当院では中隔子宮を伴う不妊・不育症に対して腹腔鏡を併用した子宮鏡下子宮中隔切除術を施行しており,今回,術後の妊娠転帰を後方視的に検討した.【方法】2010年4月から2023年3月にMRI検査と子宮鏡検査で診断した中隔子宮を伴う不妊・不育症例16例(不妊5例,不育11例)を対象とした.全身麻酔下に腹腔鏡併用の下,子宮鏡下子宮中隔切除術を行い,2カ月後に子宮鏡で内腔を観察後,妊娠を許可した.【成績】手術時の平均年齢は不妊症例34歳(31―40歳),不育症例33歳(25―42歳)であった.術後全例で妊娠を認め,妊娠までの期間(中央値)は不妊症例で13カ月(4―22カ月),不育症例で8カ月(5―52カ月)であった.不妊症例では術後流産率40%(2/5症例),生児獲得率80%(4/5症例)であり,不育症例では術後流産率27%(3/11症例),生児獲得率82%(9/11症例)であった.【結論】中隔子宮に対する子宮鏡下中隔切除術は適応を慎重に判断する必要があるが,他に原因のない不妊や生児獲得歴のない不育症に対し,検討すべき選択肢と考えられる.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:中隔子宮,不妊症,不育症,子宮鏡下手術
原 著 <77巻1号 掲載予定>
単一施設におけるプロスタグランジンE2腟用剤使用妊婦の分娩アウトカムに関する後方視的検討
著者・共著者: | 廣瀨 陸人,古谷 毅一郎,倉橋 寛樹,松谷 和奈,角 真徳,岸田 賢治,山下 紗弥,張 良実,鹿戸 佳代子,坪内 弘明,荻田 和秀 |
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所 属: | りんくう総合医療センター 産婦人科 |
受付日 2024/1/24
背景:海外では分娩誘発における子宮頸管熟化法として器械的拡張法に加えプロスタグランジ ンE2腟用剤(以下,PGE2腟用剤)が用いられている.本邦では導入施設に限りがあり,エビデンス 構築がいまだ十分でない状況が続いている.方法:われわれは,PGE2腟用剤を留置した正期産妊婦を 対象に分娩アウトカムの後方視的検討を行った.子宮頸管熟化不全に対しPGE2腟用剤を用いた正期産 妊婦をPGE2群,PGE2腟用剤導入以前に器械的拡張法で子宮頸管熟化を実施した正期産妊婦をControl 群と定義し,両群で患者背景,分娩・周産期・新生児アウトカムを比較した.さらに,PGE2群におい て,留置完遂/途中抜去後の転帰・抜去事由,破水/未破水症例に対する分娩アウトカム比較を行った. 結果:PGE2群128例,Control群125例を抽出した.両群で母体背景や分娩・新生児アウトカムに有意 差は認めなかった.PGE2群128例中,経腟分娩105例(82%),帝王切開23例(18%)だった.PGE2群 で12時間留置完遂例は42例(32.8%),途中抜去例は86例(67.2%)だった.主な抜去事由は頻収縮 (53.5%),自然脱落(23.3%)胎児心拍異常(9.3%)だった.上記結果は海外からの報告と同等だっ た.PGE2群における前期破水症例は未破水症例と比較し,有意な24時間以内の経腟分娩率増加,オキ シトシン平均使用時間の短縮,PGE2腟用剤留置から分娩までの時間の短縮,留置後のBishop score≥7 点達成率増加を認めた.結論:PGE2腟用剤は頸管熟化法の新たな選択肢のみならず,前期破水症例に 対しても海外と同等の有効性・安全性が示された.一方,PGE2腟用剤は胎児心拍異常・子宮破裂など の重篤な副作用発生に対し迅速な対応が時に必要であり,十分な産科スタッフと適切な母体・胎児管 理能力を有する施設での使用が望まれる.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:分娩誘発,子宮頸管熟化不全,前期破水,器械的拡張,プロスタグランジンE2腟用剤
症例報告 <77巻1号 掲載予定>
卵巣卵管膿瘍に対して臀部からの経皮的ドレナージが有効であった2症例
著者・共著者: | 堀川 陽平1),石田 憲太郎1),星本 泰文1),大西 佑実1),中村 彩加1),多賀 敦子1),川原 清哉2),藤田 浩平1) |
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所 属: | 1)大津赤十字病院 産婦人科 2)大津赤十字病院 放射線科 |
受付日 2024/4/1
卵巣卵管膿瘍(tubo-ovarian abscess;TOA)は生殖可能年齢に多く,骨盤内炎症性疾患の15― 34%にTOAが存在する.TOAに対し抗菌薬治療や膿瘍穿刺が奏効せず,臀部からの経皮的穿刺ドレ ナージが有効であった2例を報告する.【症例1】43歳0妊.8 cm大の左TOAは3回の開腹手術歴があり, 腹腔内の癒着が高度であったため,手術加療は困難と思われた.抗菌薬治療と経腟超音波下にダグラ ス窩を穿刺し排膿を行ったが,治療抵抗性であった.放射線科と協議し,CT・超音波ガイド下に左臀 部仙骨左縁から穿刺ドレナージを施行し奏効,退院に至った.【症例2】51歳0妊.13 cm大の左TOA. 手術には拒否的であり,抗菌薬治療を行ったが奏効しなかった.放射線科に依頼し超音波ガイド下に 左臀部仙骨左縁から穿刺ドレナージを施行し症状は改善し,退院に至った.抗菌薬治療に難渋した TOAに対して臀部からの経皮的穿刺ドレナージによって治療が奏効した2例を経験した.TOAは腹腔 内の炎症や癒着のため他臓器損傷のリスクが高く,手術が困難となりやすい.最小限の侵襲に抑えな がら,治療成功率が高い経皮的穿刺ドレナージ術はTOA治療において十分有用な方法であり,その治 療選択肢として考慮されるべき治療法の1つであると考えられる.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年 2月)〕
キーワード:卵巣卵管膿瘍,骨盤内炎症性疾患,抗菌薬治療,経臀部ドレナージ
症例報告 <77巻1号 掲載予定>
異なる先天性子宮腟形態異常により 子宮腟留血腫をきたした2例についての検討
著者・共著者: | 西川 真世,豊福 彩,日野 麻世,山西 恵,山西 優紀夫,横山 玲子,山村 省吾,𠮷田 隆昭 |
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所 属: | 日本赤十字社和歌山医療センター 産婦人科 |
受付日 2024/3/22
思春期における子宮腟留血腫の頻度はまれであり対応に苦慮することが多い.発生機序の異な る先天性子宮腟形態異常により子宮腟留血腫を呈した2例を経験した.症例1は12歳,新生児期から左 腎無形成を指摘されていた.月経痛が増悪したため受診した際のMRI検査,超音波検査で重複子宮腟 と左子宮腟留血腫および左卵管留血腫を認め,左腎無形成とあわせ広義のOHVIRA(obstructed hemivagina and ipsilateral renal anomaly)症候群と診断した.腟中隔開窓術を行ない,術後経過良 好である.症例2は13歳,月経未発来であった.尿閉を伴う急性腹症のため受診し,巨大な腟留血腫を 認めた.腟口は陥凹しておりMRI検査で先天性腟下部欠損症と診断した.血腫ドレナージと緊急手術 を行ったが,腟腔維持のための術後管理に難渋した.胎児・新生児期に腎形成異常を指摘された女児 には,OHVIRA症候群を念頭に置いた初経前の超音波検査・MRI検査の計画と早めの治療が望ましく, 先天性腟下部欠損症では,自身で術後管理可能となる性成熟期まで待機できるような長期的治療計画 を立てることが望ましいと考えられる.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:子宮腟留血腫,OHVIRA症候群,先天性腟下部欠損症,Granjon手術
原 著 <77巻1号 掲載予定>
異所性妊娠における多量出血症例のリスク因子に関する検討:当院での手術症例132例における後方視的検討
著者・共著者: | 福田 大晃,磯野 渉,南野 有紗,新垣 亮輔,野口 智子,林 子耕 |
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所 属: | 紀南病院産婦人科 |
受付日 2024/4/19
【目的】手術により治療した異所性妊娠の症例に関して,腹腔内出血が500 mL以上となる症例 を多量出血と定義し,そのリスク因子を抽出するために後方視的に検討した.【方法】2007年1月から 2023年12月に治療した140症例について,メトトレキサート療法などを施行した8症例を除外して,手 術を行った132症例を解析の対象とした.その中で,腹腔内出血量が500 mL以上の多量出血22症例の 臨床的傾向を解析するために,年齢,分娩歴,最終月経からの推定妊娠週数,尿中ヒト絨毛性ゴナド トロピン値,臨床症状(腹部症状,性器出血)などの因子を抽出した.【結果】推定妊娠週数,卵管膨 大部妊娠,腹部症状,性器出血,異所性胎囊所見,腹腔内液体貯留所見に関して,多量出血の22症例 と出血量500 mL未満のコントロール110症例で有意差があった.次に該当する因子を収集できた68症 例での多変量解析では,多量出血症例の可能性は腹部症状で有意に多く,卵管膨大部妊娠で有意に少 なく,妊娠7週以上,尿中hCG値4,000 mIU/mL以上で多い傾向にあった.【結論】腹部症状があり, 妊娠7週以上,尿中hCG値4,000 mIU/mL以上の症例では多量出血のリスクが高い傾向があり,より慎 重な対応が必要であると考えられた.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:異所性妊娠,推定妊娠週数,腹部症状,多変量解析,後方視的研究
原 著 <77巻1号 掲載予定>
胚盤胞到達速度が出生児性比と出生体重へ及ぼす影響
著者・共著者: | 姜 賢淑,山出 一郎,中山 貴弘,眞田 佐知子,井上 卓也,濱田 啓義,澤田 守男,畑山 博 |
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所 属: | 医療法人財団 今井会 足立病院 産婦人科 |
受付日 2024/4/10
目的:多くの哺乳類では,XY胚はXX胚よりも胚盤胞への発育速度が速いことが知られている.生殖補助医療では,胚盤胞へ速く到達した胚は妊娠率や生児獲得率の高い良好胚とされ,発育速度は移植胚選別の重要な指標である.通常培養では,Day5で胚盤胞に到達する胚(Day5BL)が最多だが,Day4で到達する胚(Day4BL)や,Day6で到達する胚(Day6BL)も存在する.これまでDay5BLとDay6BLとの比較で出生児性比に差がないという報告はあるが,Day4BLとDay6BLとの比較検討は見られない.当院での凍結融解単胚盤胞移植で,胚盤胞到達速度と出生児性比や出生体重の関連について検討した.方法:2014年1月から2023年7月における19,063例の凍結融解単胚移植のうち,305例の生児を対象とした.Day4BL群とDay6BL群における臨床背景,児の性別および体格を比較検討した.結果:Day4BL群とDay6BL群の間において出生児性比や出生時体格に有意差はなく,胚盤胞到達速度による影響は見られなかった.以上のことからDay6BLも移植胚選定において有効な選択肢と考えられた.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:Day4胚盤胞,Day6胚盤胞,出生時性比,出生体重,傾向スコアマッチング
原 著 <77巻1号 掲載予定>
産科危機的出血に対する経カテーテル的動脈塞栓術の有用性に関する検討
著者・共著者: | 坂本 敬哉,川﨑 薫,城玲 央奈,森内 芳,黄 彩実,葉 宜慧,松村 謙臣 |
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所 属: | 近畿大学医学部産科婦人科学教室 |
受付日 2024/1/12
当院で2012年から2022年に産科危機的出血に対し経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization;TAE)を施行した35症例を対象とし,TAEの臨床的成功率,不成功のリスク因子や合併症について後方視的に検討した.産科危機的出血の内訳は分娩後24時間以内の異常出血では弛緩出血(63%),後期分娩後異常出血では遺残胎盤(73%)が最も多かった.TAEの臨床的成功率は94%であった.分娩後24時間以内の異常出血では,再出血群(2例)と非再出血群(22例)とで妊娠と分娩方法,周産期合併症(妊娠高血圧症候群,産科DIC)の有無,臨床所見や血液検査所見に差はなかった.TAE不成功2例は弛緩出血と軟産道裂傷の合併,子宮型羊水塞栓症であり,1例は再TAE,1例は子宮摘出により止血した.合併症は発熱(37%),感染(20%),血管損傷(3%)であった.感染症のリスク因子は同定されなかった.TAEの成功率は高いが,TAEで止血しなかった場合の止血処置を念頭におく必要がある.そして造影CTは止血部位の同定や止血方法の決定に有用である.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:産科危機的出血,経カテーテル的動脈塞栓術
症例報告 <77巻1号 掲載予定>
緊急帝王切開術後の絞扼性腸閉塞に対して腹腔鏡下腸管癒着剥離術を施行した1例
著者・共著者: | 植田 真帆1),田中 絢香1),山田 芙由美1),角田 紗保里1),八田 幸治1),高山 敬範1),山下 晋也2),橋本 奈美子1) |
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所 属: | 1)日本生命病院産婦人科 2)同・消化器外科 |
受付日 2023/12/28
帝王切開術後の絞扼性腸閉塞はまれであるが,診断が遅れると腸管壊死をきたすため早急な対応が必要である.今回われわれは,腹腔鏡手術によって小腸閉塞の解除を行なった1例を経験したので報告する.症例は40歳2経1妊の経産婦であり,既往帝王切開術後妊娠に対して選択的帝王切開術予定であったが,妊娠37週4日に陣痛が発来したため緊急帝王切開術を施行した.術後3日目の夜間より左側腹部痛が出現し,術後4日目朝に腹膜刺激症状と血液検査で炎症反応を認めた.腹部X線検査で小腸の拡張とニボーを認め,腹部造影CT検査で小腸の拡張と回腸遠位の狭窄を認めた.絞扼性腸閉塞と診断して緊急腹腔鏡下腸管癒着剥離術を施行した.術中所見では子宮底部と腸間膜の間に索状物を認め,索状物により小腸が絞扼していた.腸管虚血には至っておらず,索状物を切離して閉塞を解除して手術を終了した.術後経過は良好であった.産褥期の腸閉塞の半数以上は既往手術による癒着が原因とされている.本症例は腸閉塞を疑い,早期診断ができたため腹腔鏡手術が可能であった.帝王切開術後に限局した強い腹痛を認めた場合には,絞扼性腸閉塞の可能性も考慮して診療にあたる必要がある.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:絞扼性腸閉塞,帝王切開術後,腹腔鏡下腸管癒着剥離術