産婦人科の進歩
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原 著
中隔子宮を有する不妊・不育症に対する子宮鏡下子宮中隔切除術の有効性に関する検討
著者・共著者: | 中村真由美,林 正美,石川 渚,森田 奈津子, 丸岡 寛,劉 昌恵,猪木 千春,大道 正英 |
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所 属: | 大阪医科薬科大学産婦人科学教室 |
受付日 2024/8/30
【目的】当院では中隔子宮を伴う不妊・不育症に対して腹腔鏡を併用した子宮鏡下子宮中隔切除術を施行しており,今回,術後の妊娠転帰を後方視的に検討した.【方法】2010年4月から2023年3月にMRI検査と子宮鏡検査で診断した中隔子宮を伴う不妊・不育症例16例(不妊5例,不育11例)を対象とした.全身麻酔下に腹腔鏡併用の下,子宮鏡下子宮中隔切除術を行い,2カ月後に子宮鏡で内腔を観察後,妊娠を許可した.【成績】手術時の平均年齢は不妊症例34歳(31―40歳),不育症例33歳(25―42歳)であった.術後全例で妊娠を認め,妊娠までの期間(中央値)は不妊症例で13カ月(4―22カ月),不育症例で8カ月(5―52カ月)であった.不妊症例では術後流産率40%(2/5症例),生児獲得率80%(4/5症例)であり,不育症例では術後流産率27%(3/11症例),生児獲得率82%(9/11症例)であった.【結論】中隔子宮に対する子宮鏡下中隔切除術は適応を慎重に判断する必要があるが,他に原因のない不妊や生児獲得歴のない不育症に対し,検討すべき選択肢と考えられる.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:中隔子宮,不妊症,不育症,子宮鏡下手術
原 著
単一施設におけるプロスタグランジンE2腟用剤使用妊婦の分娩アウトカムに関する後方視的検討
著者・共著者: | 廣瀨 陸人,古谷 毅一郎,倉橋 寛樹,松谷 和奈,角 真徳,岸田 賢治,山下 紗弥,張 良実,鹿戸 佳代子,坪内 弘明,荻田 和秀 |
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所 属: | りんくう総合医療センター 産婦人科 |
受付日 2024/1/24
背景:海外では分娩誘発における子宮頸管熟化法として器械的拡張法に加えプロスタグランジ ンE2腟用剤(以下,PGE2腟用剤)が用いられている.本邦では導入施設に限りがあり,エビデンス 構築がいまだ十分でない状況が続いている.方法:われわれは,PGE2腟用剤を留置した正期産妊婦を 対象に分娩アウトカムの後方視的検討を行った.子宮頸管熟化不全に対しPGE2腟用剤を用いた正期産 妊婦をPGE2群,PGE2腟用剤導入以前に器械的拡張法で子宮頸管熟化を実施した正期産妊婦をControl 群と定義し,両群で患者背景,分娩・周産期・新生児アウトカムを比較した.さらに,PGE2群におい て,留置完遂/途中抜去後の転帰・抜去事由,破水/未破水症例に対する分娩アウトカム比較を行った. 結果:PGE2群128例,Control群125例を抽出した.両群で母体背景や分娩・新生児アウトカムに有意 差は認めなかった.PGE2群128例中,経腟分娩105例(82%),帝王切開23例(18%)だった.PGE2群 で12時間留置完遂例は42例(32.8%),途中抜去例は86例(67.2%)だった.主な抜去事由は頻収縮 (53.5%),自然脱落(23.3%)胎児心拍異常(9.3%)だった.上記結果は海外からの報告と同等だっ た.PGE2群における前期破水症例は未破水症例と比較し,有意な24時間以内の経腟分娩率増加,オキ シトシン平均使用時間の短縮,PGE2腟用剤留置から分娩までの時間の短縮,留置後のBishop score≥7 点達成率増加を認めた.結論:PGE2腟用剤は頸管熟化法の新たな選択肢のみならず,前期破水症例に 対しても海外と同等の有効性・安全性が示された.一方,PGE2腟用剤は胎児心拍異常・子宮破裂など の重篤な副作用発生に対し迅速な対応が時に必要であり,十分な産科スタッフと適切な母体・胎児管 理能力を有する施設での使用が望まれる.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:分娩誘発,子宮頸管熟化不全,前期破水,器械的拡張,プロスタグランジンE2腟用剤
症例報告
卵巣卵管膿瘍に対して臀部からの経皮的ドレナージが有効であった2症例
著者・共著者: | 堀川 陽平1),石田 憲太郎1),星本 泰文1),大西 佑実1),中村 彩加1),多賀 敦子1),川原 清哉2),藤田 浩平1) |
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所 属: | 1)大津赤十字病院 産婦人科 2)大津赤十字病院 放射線科 |
受付日 2024/4/1
卵巣卵管膿瘍(tubo-ovarian abscess;TOA)は生殖可能年齢に多く,骨盤内炎症性疾患の15― 34%にTOAが存在する.TOAに対し抗菌薬治療や膿瘍穿刺が奏効せず,臀部からの経皮的穿刺ドレ ナージが有効であった2例を報告する.【症例1】43歳0妊.8 cm大の左TOAは3回の開腹手術歴があり, 腹腔内の癒着が高度であったため,手術加療は困難と思われた.抗菌薬治療と経腟超音波下にダグラ ス窩を穿刺し排膿を行ったが,治療抵抗性であった.放射線科と協議し,CT・超音波ガイド下に左臀 部仙骨左縁から穿刺ドレナージを施行し奏効,退院に至った.【症例2】51歳0妊.13 cm大の左TOA. 手術には拒否的であり,抗菌薬治療を行ったが奏効しなかった.放射線科に依頼し超音波ガイド下に 左臀部仙骨左縁から穿刺ドレナージを施行し症状は改善し,退院に至った.抗菌薬治療に難渋した TOAに対して臀部からの経皮的穿刺ドレナージによって治療が奏効した2例を経験した.TOAは腹腔 内の炎症や癒着のため他臓器損傷のリスクが高く,手術が困難となりやすい.最小限の侵襲に抑えな がら,治療成功率が高い経皮的穿刺ドレナージ術はTOA治療において十分有用な方法であり,その治 療選択肢として考慮されるべき治療法の1つであると考えられる.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年 2月)〕
キーワード:卵巣卵管膿瘍,骨盤内炎症性疾患,抗菌薬治療,経臀部ドレナージ
症例報告
異なる先天性子宮腟形態異常により 子宮腟留血腫をきたした2例についての検討
著者・共著者: | 西川 真世,豊福 彩,日野 麻世,山西 恵,山西 優紀夫,横山 玲子,山村 省吾,𠮷田 隆昭 |
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所 属: | 日本赤十字社和歌山医療センター 産婦人科 |
受付日 2024/3/22
思春期における子宮腟留血腫の頻度はまれであり対応に苦慮することが多い.発生機序の異な る先天性子宮腟形態異常により子宮腟留血腫を呈した2例を経験した.症例1は12歳,新生児期から左 腎無形成を指摘されていた.月経痛が増悪したため受診した際のMRI検査,超音波検査で重複子宮腟 と左子宮腟留血腫および左卵管留血腫を認め,左腎無形成とあわせ広義のOHVIRA(obstructed hemivagina and ipsilateral renal anomaly)症候群と診断した.腟中隔開窓術を行ない,術後経過良 好である.症例2は13歳,月経未発来であった.尿閉を伴う急性腹症のため受診し,巨大な腟留血腫を 認めた.腟口は陥凹しておりMRI検査で先天性腟下部欠損症と診断した.血腫ドレナージと緊急手術 を行ったが,腟腔維持のための術後管理に難渋した.胎児・新生児期に腎形成異常を指摘された女児 には,OHVIRA症候群を念頭に置いた初経前の超音波検査・MRI検査の計画と早めの治療が望ましく, 先天性腟下部欠損症では,自身で術後管理可能となる性成熟期まで待機できるような長期的治療計画 を立てることが望ましいと考えられる.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:子宮腟留血腫,OHVIRA症候群,先天性腟下部欠損症,Granjon手術
原 著
異所性妊娠における多量出血症例のリスク因子に関する検討:当院での手術症例132例における後方視的検討
著者・共著者: | 福田 大晃,磯野 渉,南野 有紗,新垣 亮輔,野口 智子,林 子耕 |
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所 属: | 紀南病院産婦人科 |
受付日 2024/4/19
【目的】手術により治療した異所性妊娠の症例に関して,腹腔内出血が500 mL以上となる症例 を多量出血と定義し,そのリスク因子を抽出するために後方視的に検討した.【方法】2007年1月から 2023年12月に治療した140症例について,メトトレキサート療法などを施行した8症例を除外して,手 術を行った132症例を解析の対象とした.その中で,腹腔内出血量が500 mL以上の多量出血22症例の 臨床的傾向を解析するために,年齢,分娩歴,最終月経からの推定妊娠週数,尿中ヒト絨毛性ゴナド トロピン値,臨床症状(腹部症状,性器出血)などの因子を抽出した.【結果】推定妊娠週数,卵管膨 大部妊娠,腹部症状,性器出血,異所性胎囊所見,腹腔内液体貯留所見に関して,多量出血の22症例 と出血量500 mL未満のコントロール110症例で有意差があった.次に該当する因子を収集できた68症 例での多変量解析では,多量出血症例の可能性は腹部症状で有意に多く,卵管膨大部妊娠で有意に少 なく,妊娠7週以上,尿中hCG値4,000 mIU/mL以上で多い傾向にあった.【結論】腹部症状があり, 妊娠7週以上,尿中hCG値4,000 mIU/mL以上の症例では多量出血のリスクが高い傾向があり,より慎 重な対応が必要であると考えられた.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:異所性妊娠,推定妊娠週数,腹部症状,多変量解析,後方視的研究
原 著
胚盤胞到達速度が出生児性比と出生体重へ及ぼす影響
著者・共著者: | 姜 賢淑,山出 一郎,中山 貴弘,眞田 佐知子,井上 卓也,濱田 啓義,澤田 守男,畑山 博 |
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所 属: | 医療法人財団 今井会 足立病院 産婦人科 |
受付日 2024/4/10
目的:多くの哺乳類では,XY胚はXX胚よりも胚盤胞への発育速度が速いことが知られている.生殖補助医療では,胚盤胞へ速く到達した胚は妊娠率や生児獲得率の高い良好胚とされ,発育速度は移植胚選別の重要な指標である.通常培養では,Day5で胚盤胞に到達する胚(Day5BL)が最多だが,Day4で到達する胚(Day4BL)や,Day6で到達する胚(Day6BL)も存在する.これまでDay5BLとDay6BLとの比較で出生児性比に差がないという報告はあるが,Day4BLとDay6BLとの比較検討は見られない.当院での凍結融解単胚盤胞移植で,胚盤胞到達速度と出生児性比や出生体重の関連について検討した.方法:2014年1月から2023年7月における19,063例の凍結融解単胚移植のうち,305例の生児を対象とした.Day4BL群とDay6BL群における臨床背景,児の性別および体格を比較検討した.結果:Day4BL群とDay6BL群の間において出生児性比や出生時体格に有意差はなく,胚盤胞到達速度による影響は見られなかった.以上のことからDay6BLも移植胚選定において有効な選択肢と考えられた.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:Day4胚盤胞,Day6胚盤胞,出生時性比,出生体重,傾向スコアマッチング
原 著
産科危機的出血に対する経カテーテル的動脈塞栓術の有用性に関する検討
著者・共著者: | 坂本 敬哉,川﨑 薫,城玲 央奈,森内 芳,黄 彩実,葉 宜慧,松村 謙臣 |
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所 属: | 近畿大学医学部産科婦人科学教室 |
受付日 2024/1/12
当院で2012年から2022年に産科危機的出血に対し経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization;TAE)を施行した35症例を対象とし,TAEの臨床的成功率,不成功のリスク因子や合併症について後方視的に検討した.産科危機的出血の内訳は分娩後24時間以内の異常出血では弛緩出血(63%),後期分娩後異常出血では遺残胎盤(73%)が最も多かった.TAEの臨床的成功率は94%であった.分娩後24時間以内の異常出血では,再出血群(2例)と非再出血群(22例)とで妊娠と分娩方法,周産期合併症(妊娠高血圧症候群,産科DIC)の有無,臨床所見や血液検査所見に差はなかった.TAE不成功2例は弛緩出血と軟産道裂傷の合併,子宮型羊水塞栓症であり,1例は再TAE,1例は子宮摘出により止血した.合併症は発熱(37%),感染(20%),血管損傷(3%)であった.感染症のリスク因子は同定されなかった.TAEの成功率は高いが,TAEで止血しなかった場合の止血処置を念頭におく必要がある.そして造影CTは止血部位の同定や止血方法の決定に有用である.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:産科危機的出血,経カテーテル的動脈塞栓術
症例報告
緊急帝王切開術後の絞扼性腸閉塞に対して腹腔鏡下腸管癒着剥離術を施行した1例
著者・共著者: | 植田 真帆1),田中 絢香1),山田 芙由美1),角田 紗保里1),八田 幸治1),高山 敬範1),山下 晋也2),橋本 奈美子1) |
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所 属: | 1)日本生命病院産婦人科 2)同・消化器外科 |
受付日 2023/12/28
帝王切開術後の絞扼性腸閉塞はまれであるが,診断が遅れると腸管壊死をきたすため早急な対応が必要である.今回われわれは,腹腔鏡手術によって小腸閉塞の解除を行なった1例を経験したので報告する.症例は40歳2経1妊の経産婦であり,既往帝王切開術後妊娠に対して選択的帝王切開術予定であったが,妊娠37週4日に陣痛が発来したため緊急帝王切開術を施行した.術後3日目の夜間より左側腹部痛が出現し,術後4日目朝に腹膜刺激症状と血液検査で炎症反応を認めた.腹部X線検査で小腸の拡張とニボーを認め,腹部造影CT検査で小腸の拡張と回腸遠位の狭窄を認めた.絞扼性腸閉塞と診断して緊急腹腔鏡下腸管癒着剥離術を施行した.術中所見では子宮底部と腸間膜の間に索状物を認め,索状物により小腸が絞扼していた.腸管虚血には至っておらず,索状物を切離して閉塞を解除して手術を終了した.術後経過は良好であった.産褥期の腸閉塞の半数以上は既往手術による癒着が原因とされている.本症例は腸閉塞を疑い,早期診断ができたため腹腔鏡手術が可能であった.帝王切開術後に限局した強い腹痛を認めた場合には,絞扼性腸閉塞の可能性も考慮して診療にあたる必要がある.〔産婦の進歩77(1),2025(令和7年2月)〕
キーワード:絞扼性腸閉塞,帝王切開術後,腹腔鏡下腸管癒着剥離術